祠堂卒業後(未来捏造)
□We are
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繰り返し繰り返し夢に見る。
全てを拒絶していた高校一年の頃の託生を。
託生がNYにきたあの春の、オレを忘れた託生を。
九鬼島の京古野邸の暗い廊下の冷たい背中を。
オレの知らない人と談笑しながらオレを置いていってしまう託生を。
何度も何度も、声を限りに叫んでも、振り返りもせずに去ってしまう託生を。
■君が嘘をついた■ギイ■
祠堂を卒業して、あの夢のような楽園から追い出され、早く帰って来いというオヤジを初めとする関係者各位の要望を撥ね付けて、オレは東京の家に居座った。
結果として、こっちでもできる仕事をすべて引き受けることにはなったが、USAにいるよりは託生と会える時間をはるかにとれるのだから、それらの仕事は甘んじて受け取った。
託生も新しい環境に慣れるのに精一杯だったせいもあって、一緒に過ごす時間はオレの予定より少なかった。
だが大学の夏休みはまるまる二ヶ月もある。その間、オレは全て託生と過ごすつもりだった。
どこかの別荘でもホテルでも、いっそ国外でも、託生が行きたい場所があるならどこへでも連れて行ってやろうと思っていた。
ところが、夏休み明けに発表会があるから、と託生はオレの誘いを断った。
「そりゃギイとは一緒にいたいけど、夏休み全部はさすがに無理だよ」
佐智のサロンコンサートで会えるからいいじゃないか、とそんなつれないことを言い出す始末だ。
八月頭からとしたって、たかだか二週間。
しかも、佐智は今年も託生に出演させるつもりでいるから、バイオリンの練習にかなりの時間をとられてしまう。
案の定、オレにとっては物足りない夏となった。