祠堂卒業後(未来捏造)

□Happy Birthday to GIE
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Happy Birthday to GIE

 山奥に閉じ込められたような若者たちは常に娯楽に飢えている。
 寝苦しい暑い夏の夜に持ち込まれた企画に学生達は飛びついた。
 思い思いの花火を手に、固まって騒ぐグループもあるが、そこここで闇に咲く花をそれぞれに咲かせている。
「はい」
 と差し出された火の付いた花火。
 託生が持ち手に手を伸ばしても、互いの手が触れ合わないくらい、火に近い部分を手にしていた。
 いつまでもそのままではギイの手が火傷しそうで、それに気付いて慌てて受け取ってしまった。
「え、あ……」
 ぱちぱちと爆ぜる光と夜目にも麗しく微笑むギイの顔とを見比べて、託生は呟くよう小さく口にする。
「……あ、ありがとう」






「そんなこと、あったっけ?」
 ベッドヘッドに背中を預けて煙草を咥えたギイをぼくは見上げた。
「あったんだよ」
 汗で額に張り付くぼくの前髪を長い指ですきながらギイは答えた。 
 だっておかしいよ、とぼくは首をかしげる。
「ギイの誕生日って、高校の時ならもう夏休みじゃないか」
 七月の終わりは日本でもアメリカでも大抵の学生は夏休みだ。
「だいたい、みんなで花火なんて西沢公園でしたくらいだろ。あれ、二学期始まってからだったよね」
「託生、それは二年の時だろ」
「そうだよ。一年の時のぼくがみんなと花火なんて……」
 するわけないじゃないか、と言いかけてぼくは何かにひっかかった。
「ん?」
 一年の一学期は、終了式が終ってもすぐに退寮はしなかった。
 夏休みが始まっても全ての学生がすぐに帰省するわけではない。インハイ予選を勝ち抜いている運動部はもちろん、補習なんかもあったりするから、七月いっぱいくらいは寮に残っている学生も多い。
 家に帰りたくなかったぼくは、取れる補習をかたっぱしから申し込んで、ぎりぎりまで寮にいた。
 そうだ、その時だ。
 何故だか突然に始まった花火大会。いつも何かと話しかけてくれていた相楽先輩に誘われて、ぼくも参加することになった。
 何本目かの花火を用意されていたバケツに捨て、闇の中で咲いては消える花をなんとなく見ていた。
 ぼくに声をかけたり輪の中にひっぱりこもうとする人はもういなくて、けれど特に邪険にされるでもなく、花火だから人とは距離をとらなくてはならなくて──だから相楽先輩はぼくを誘ってくれたのだろう。本当にさすが《伝説の男》だ──おかげで特に居心地が悪くなることもなく楽しめた。
 めったにないことだけれど、同じことをしているからか連帯感のようなものも感じられて、なんとなく気分も良かった。
 そんな時にギイから差し出された花火。
 いつも何かと庇ってくれていたことはわかっていたけど、一度だって言えたことがないのに、その言葉を素直に口から出せた。




「思い出したか?」
「一年の、夏休みに入ってからだよね」
今になって思えば、相良先輩がギイの誕生日を知らないわけがない。あの花火大会そのものがギイへの誕生日プレゼントだったんじゃないだろうか。
「そう」
 嬉しそうにギイが笑う。
「オレが初めて託生から誕生日プレゼントをもらった記念すべき年」
 初めて一緒に過ごした、というのならまだしも。
「何もあげてないだろ」
 ギイへのプレゼントどころか、花火を受け取ったのはぼくの方だ。
 それに。
「ギイの誕生日だってことも知らなかったよ」
「そんなこと、関係ないね」
 オレが託生からもらったとそう思ったんだからいいんだ、とギイは笑う。見ているだけで幸せになれる綺麗な笑顔で。
「プレゼントって物だけじゃないだろ。現に今年もとても色っぽい託生を…」
「わー! 言うなっ」
 恥ずかしいから、口にするなよな、そんなこと。
 毎年毎年、誕生日に何か欲しいものない?って聞いてもはぐらかして答えてくれないギイ。いつも『オレが欲しいのは託生だけだよ』って、そんなどうしていいかわからないくらい嬉しい言葉だけで。
 結局いつも、本当にそれでいいの?といいながらその言葉に甘えてしまっている。
「ここ数年いつも同じじゃないか」
 もういい加減マンネリだろ。
 会えたり会えなかったりの去年までと違って、一緒に暮らし始めて初めての誕生日だから何か少しは気の利いたものを、と思ったんだけど。ニューヨークでギイの好きそうなものを捜すのにギイに内緒ってことはできなくて。結局、去年と同じになってしまった。
「託生はいつもオレが一番欲しいものをくれるよ」
 吸殻を灰皿で揉み消したギイがぼくの隣に戻ってくる。
「そうかな?」
 とてもそうは思えない。
「今からでもいいよ。何か欲しいものがあるなら言ってよね」
 サプライズでないなら一緒に買いに行くこともできる。
 長い腕に抱きこまれながらぼくは言った。
「じゃあもう一度くれるか?さっきのプレゼント」
 首筋にキスを埋めながらギイが囁く。
 背中を辿る指から送り込まれる感覚に心を預けながらぼくも囁き返した。
「一度といわず何度でも」
 だって今日はギイの誕生日。きみの生まれた日はまだ始まったばかりだから。



fin.
2011/07/29
ギイBD記念

+++after+++
ついったでもりあがったギイ誕生日企画(?)に便乗。

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