死神と逃げる月

□全編
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《告白》




「好きです」




10月のある日、昼休みの屋上で嘘吐きな彼女は告白をした。




暢気な彼は答える。




「何を今さら。オレたち付き合ってんじゃん」




付き合いだしてから、1年ほどになるだろうか。




確か1年前もこんな感じで告白が行われたと記憶している。




「私ね、こないだ死神に会ったんだ。だから死ぬ前に伝えなきゃと思って」




ああ、彼女がまた大袈裟な嘘を吐いている。




それを真に受けたのか合わせているだけなのかは知らないが、暢気な彼は目を丸くした。




「死神って、お前死ぬのか?」




鞄から何かを出しながら、彼女は返事を考える。




「ねえ、知ってる?誰だっていつかは死ぬんだよ」




彼女の「ねえ、知ってる?」は枕詞のようなもので、大抵その後ろには嘘の話が続けられる。




だから「誰だっていつかは死ぬんだよ」も、真っ赤な嘘なのかもしれない。




「それでお前、いつ死ぬんだ。死神は言ってなかったか?」




「私?」




彼女が取り出したのは、小さな猫と月のイラストがあしらわれた袋だった。




中身はお弁当らしい。
「なんだ、お前今日から弁当なのか」と暢気な彼は言った。




「そう言えば結局訊かなかったな。私は90歳くらいじゃないかな」




「それって、結構長生きだな。安心したよ」




暢気な彼は今日も売店で買ったパンを口へ運ぶ。




「ストップ」




彼女は彼からパンを取り上げ、代わりに猫と月のお弁当箱を渡す。




「…オレに?」




「私、今日はパンが食べたい気分なの」




嘘吐きな彼女が、慣れない手つきで焼きそばパンのビニールを破れば




暢気な彼もまた、慣れない手つきでお弁当を広げる。




「オレも好きだよ」




暢気な彼が答えた。




確か1年前もそんな返事だったと記憶している。
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