死神と逃げる月

□全編
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《星座のおはなし》




「寝てるよ」




「寝てるね」




「まるでソムヌスみたいに」




「違うよ。この人はモロスだよ」




「それは昔のことさ。今はタルタロスかもしれない」




「彼女が寝てる間に、向こうでは随分と風が吹いたね」




「ティフォンが暴れていたんだってさ」




「そりゃ大変。アルテミスだって逃げ出すよ」




「ああ、猫になって逃げたんだっけ」




「月になって逃げたんじゃないの?」




「山羊だと思ってた」




「それはパーンだろ」




「パーンは魚でしょ」




「何とも言えない」




「魚になったのはアフロディーテだよ」




「そうだっけ」




「あと熊にされたのがカリストだね」




「それは別の物語」




「ねぇねぇ、あの子ってアンドロメダかな」




「勝手に覗いたら怒られるよ」




「店番してる子?」




「何とも言えない」




「だけど、そうかもね」




「どうやらケフェウスはカシオペヤのことで頭がいっぱいらしい」




「ペルセウスは何処にいるのさ」




「いいんじゃない?ティアマトだって来やしないのに」




「ゴルゴンの姿も見えない。平和だね」




「それでもペガサスを待っているみたいだよ」




「なら、いつか迎えに来るさ」




「そう言えば、そろそろ秋だもんね」




「関係あるの?」




「何とも言えない」




「いけない。ソムヌスが起きちゃう」




「モロスだってば」




「タルタロス」




「おやすみ」




「またね」









彼女はそこで目を覚ました。




やれやれ、どうやらソファに座ったまま居眠りをしていたらしい。




誰かが喋っていた。
あれは多分、星座のおはなし。




部屋には彼女以外に誰もいない。
夢でも見ていたのだろう。




そして始まりを探す彼女は、棚の上に置いてある黒い箱に手を伸ばした。
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