死神と逃げる月
□全編
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《バスを待つ》
ばーちゃん、どうしたの。
一人でベンチに座って。
「バスを待っているんだよ」
バスは来ないよ。ここの路線は廃止になったんだって。
「そうかい」
そう。オレの彼女が言ってた。
あの子は嘘吐きだけど、いつも本当のことしか言わないんだ。
「私もね、本当は知っているんだよ。だいぶ前からバスが来なくなった。今はこのベンチが残っているだけさ」
誰かを待っていたの?
「初めはね。だけど近頃は体が弱っていけないから、毎日ここまで散歩するのが日課なのさ」
オレいつも学校の行き帰りにここを通ってるけど、会わないね。
「今日はまた雪が降るって言うだろう。だから少し早めに出たんだよ」
雪、降るんだ。
「どうだろうね。降るか降らないか」
ばーちゃん。
「なんだい」
待ってる人、来るといいね。
きっと来るよね。
「どうだろうね。来るか来ないか」
オレの彼女ならきっと言うよ。
絶対に来るって。
そう言おうとしたけど、やめた。
遠くの交差点を、別の路線のバスが横切っていくのが見えた。