死神と逃げる月
□全編
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《某国の元首・2》
「元首、いかがなさいましたか!」
夢を見たのだ。
「夢でありますか!」
敵国が攻め込んでくる。
既に領土の周りを戦車や軍艦が取り囲み、ミサイルの射程に入ってしまった。
後は号令が発せられるのみだ。
「しかし元首!それは夢でありましょう!本日も世界は平和そのものであります!」
私が元首になった時にも、投票に勝つ夢を見た。
これは神のお告げかもしれん。
「元首!申し上げます!この通り、レーダーにも何も映っておりません!異状なしであります!」
レーダーが間違っているのだ。
あるいは極秘に開発された新型のステルス兵器の可能性もある。
今や既にミサイルが発射され、我々に向かってまさに飛んでくるところなのだ。
「元首!朝食の用意が出来ておりますが、いかがなさいますか!」
仮にただの夢であったとしても、このままでは安心して食事もとれぬ。
軍備を増強するのだ。
「しかしながら元首!我が国は本日も平和そのものであります!」
その平和を壊してでも、軍備を増強するのだ。
「しかし元首…」
私はただ不安でたまらないのだ。