死神と逃げる月

□全編
37ページ/331ページ

《fear》




「始まり」を決め、「退屈」を知り、「窓」を描いた彼女は




次に「恐れ」を探した。




これまでの探し物とは少し様相が異なっている。




理由があって知りたくて探したというよりも、知っておかなければ不安だった。




しばらく考え込んでいたが思い出したように部屋の隅に向かい、立ててあったそれに掛かっている布を取り払う。




それは「姿見」だ。




彼女はいつも世界を見つめることばかりしてきた。
自分自身を見ようとしたのは、これが初めてかもしれない。




鏡の中の彼女は問いかける。
あなたはどうして、ずっと探し物ばかりしているの。




そんなこと、彼女に答えられる訳がない。
言わば、その答えを探しているようなものだから。




鏡の中の彼女は問いただす。
探し物が見つかったら、あなたは一体どうするつもり。




そんなこと、彼女に答えられる訳がない。
言わば、それを知るために探しているようなものだから。




鏡の中の彼女は問い詰める。
じゃあ探し物がずっと見つからなかったら、あなたは一体どうするつもり。
そうやって探していることに、あなたがここにいることに、「意味」なんてなくなるかもしれない。
そうしたらまた今度は「意味」を探すのか。
問い詰める。
あなたにあるのは「意味」じゃない、「役割」だけだ。
全ての「始まり」を探し続けるという「役割」だけだ。
全ての「終わり」を見届けるという「役割」だけだ。
あなたはいつだって、孤独だ。この先もずっと。
あなたは一体、誰なの。




彼女はついに目を逸らした。




愛用のソファにどっぷりと深く座り込み、黒服からの手紙でも届いていないかと慌てて探し始める。




けれど、




ああ私はまた探しているんだ、と気付いてすぐにその手を止めた。




自分を見つめる自分の目が、彼女に「恐れ」を与えた。




そもそも「恐れ」なんてものは、この世界には存在しない。




それは始めから、自分自身の中に在った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ