死神と逃げる月
□全編
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《ニュースペーパーは語る》
昨日、俺の公園に新入りが来た。
全身真っ黒で、無口な奴だ。
変な奴だがここに住み着くなら俺は歓迎する。
ああいうのを見ると体育会系の血が騒いで、ついつい世話を焼きたくなるんだ。
この公園で俺が面倒を見ているホームレスは結構いる。
両手の指を使えば数えられるけど、片手じゃ足りないくらいだ。
その新入りに昨日は…ああ真っ黒だから「黒助」って呼んでやろうと今思いついた。
奴に昨日は新聞を読むことの大切さを教えてやった。
今度会った時は、新聞の読み方を教えてやろうと思う。
新聞ってのは、隅っこが大事だ。
大見出しで如何にも重要そうに書かれている事柄なんて、大袈裟なだけで大した話題じゃない。
公務員が着服しただの、国道で事故が起きただの、何度も繰り返される再放送みたいな記事ばかりさ。
今日も新聞を拾ってきたが、一面は某国の元首が戦争をやりたがっているという話だった。
そりゃ大事なことかもしれないが、それを知ったからって俺の生活はいつも通りさ。
俺たちに必要なのはもっと身近で、現実味のあるニュースだ。
だから大きな記事は見出しだけ読んで何となく覚えておいて、あとは隅っこをじっくり読むといい。
「この街に死神がやってきました」なんてニュースが、こっそり隠れているかもしれないからな。