死神と逃げる月
□全編
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《Black and white》
「あれ、こんなところに猫がいるね」
黒服の男は身を屈めて、ショーウィンドウを覗き込んだ。
猫のサチコは、やれやれと溜め息を吐く。
厄介な奴と出会ったもんだ。
『死神が何の用だい』
「や、これは驚いた。喋る猫か」
『ふん。自分が半端な存在のくせに、猫が喋ったくらいで腰を抜かさないでほしいわね』
「テレパシーのようなものかな。実に興味深い」
『こっちは死神なんかに興味はないわよ』
「俺は最近この街に来たんだが、あんたは長いのかい」
『長くない。私も最近だ』
「そうか」
『そうよ』
「いい街だな」
『いい街ね』
「俺は意外と猫が好きなんだが」
『それはどうも』
「良かったら俺と友達になってくれないか」
『やなこった。縁起でもない』
猫のサチコは、そっぽを向いた。
真っ黒な死神と真っ白な猫は
この日から、たびたび会っては話す仲になっていった。