死神と逃げる月

□全編
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《ペガサス》




「おう坊主。チョウチョでも見つけたのか」




俺が空き缶集めを終えて駅前公園に戻ると




噴水広場の辺りで男の子が飛び跳ねていた。




この子のことなら知っている。
ヒーローに憧れて街中を駆け回っている小学生。




そして以前、家出をしようとして迷子になっていた子だ。




「違います。戦っているんです」




男の子は「たーん!」と声を張り上げる。




一緒にキャッチボールをしたこともあるが、子供の割りに礼儀正しい。




きっと責任感の強い、優しい子に育つだろう。
俺には分かる。




「そうか。坊主は戦っているのか」




一体何と。




そう思ったが、男の子は真剣な様子だ。
余計な口出しをすることもないだろう。




それに、この子には敵の姿が見えているのかもしれない。




人によって、月が見えたり見えなかったりするように。




「いい面構えだ。それに、そのジャンパーも」




男の子はランドセルの下に、フードの付いた長袖のジャンパーを着ていた。




もう暑い夏だというのに、余程お気に入りなのだろうか。




大きくジャンプしてランドセルが浮くたびに、背中にプリントされたエンブレムが覗く。




「ん?そいつはもしかして…」




そのエンブレムには見覚えがあった。




昔、俺が野球選手だった頃、所属していたチームのエンブレムだ。
こんなところで再会するとは。




青いチームカラーに、月と馬車を象ったエンブレム。




中央にはマスコットキャラクターでもあるペガサスが描かれている。




「もらったんです。伝説の、みたいだから」




男の子は自慢げにポーズを決めてみせた。




「いいぞ坊主。すごくいい」




伝説でペガサスと言えば、英雄ペルセウスの話で有名だ。




英雄気取りの小学生には、ピッタリのユニフォームかもしれない。
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