死神と逃げる月
□全編
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《雪と英雄》
雪の降った次の日も、郵便配達夫の彼は手紙を届けて回ります。
「たん!」
突然、声がしました。子供の声です。
「撃たれたよ。倒れて」
白く塗り立てられた公園に、マントを羽織った小学生。
細長い袋に入ったソプラノリコーダーを、きっと変身ヒーローが使うレーザー銃にでも見立てて、こちらへ向けています。
「僕?」
「そうだよ」
「僕はバイクに乗っているから、速くて当たらなかったんだよ」
それを聞いた英雄気取りの小学生は、雪の上に倒れ込んでしまいました。
「どうしたの」
「悪者の仲間が沢山いて、一撃で仕留めないと反対にやられてしまうんだ」
小学生は、ぴくりとも動きません。
「風邪をひかないようにね」
「ありがとうございます」
倒れたまま、やけに丁寧に小学生は答えます。
次に会ったら撃たれてあげようと、配達夫の彼は思いました。