死神と逃げる月
□全編
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《停止》
始まりを探す彼女は、胸騒ぎと共に目を覚ました。
それから
落ち着かない様子で辺りを見渡し、すぐさま異変に気付く。
「…何だ、これは」
部屋の中を埋め尽くすように、桜の花びらが舞い
そしてそのまま、空中で止まっているのだ。
「時間が停止している?」
机の砂時計を確認すると、砂が落ちる途中で固まり
食品サンプルのように不自然な形のまま、管の中で浮いていた。
間違いない。
誰かが時間のネジを止めたのだ。
一体誰がこんなことを。
街はどうなっている。
花びらを掻き分けて、街の様子を覗き込んだ彼女は
それを見つけると、憤りと落胆の混じった溜め息を吐いた。
「…そうか。やはり、お前だったか。やってくれたな」
この街には侵入者がいる。
それは時折、彼女の目を盗んでネジを回してきた。
そしてついには時間を止めてしまったのだ。
意図があってのことかどうかは不明だが、何にせよ危険な存在には違いない。
一刻も早く排除しなくては。
「しかし気を抜いたな。お前の所業、この目で見たぞ」
始まりを探す彼女は、また眠ろうとする体を無理やり持ち上げ
ハサミを探した。
確かキッチンにあったはずだ。
彼女は花びらを掻き分ける。
そのハサミで、街から異物を切り取るのだ。
「去るがいい。猫の姿をした、侵入者め」