死神と逃げる月

□全編
289ページ/331ページ

《停止》




始まりを探す彼女は、胸騒ぎと共に目を覚ました。




それから




落ち着かない様子で辺りを見渡し、すぐさま異変に気付く。




「…何だ、これは」




部屋の中を埋め尽くすように、桜の花びらが舞い




そしてそのまま、空中で止まっているのだ。




「時間が停止している?」




机の砂時計を確認すると、砂が落ちる途中で固まり




食品サンプルのように不自然な形のまま、管の中で浮いていた。




間違いない。
誰かが時間のネジを止めたのだ。




一体誰がこんなことを。




街はどうなっている。




花びらを掻き分けて、街の様子を覗き込んだ彼女は




それを見つけると、憤りと落胆の混じった溜め息を吐いた。




「…そうか。やはり、お前だったか。やってくれたな」




この街には侵入者がいる。




それは時折、彼女の目を盗んでネジを回してきた。




そしてついには時間を止めてしまったのだ。




意図があってのことかどうかは不明だが、何にせよ危険な存在には違いない。




一刻も早く排除しなくては。




「しかし気を抜いたな。お前の所業、この目で見たぞ」




始まりを探す彼女は、また眠ろうとする体を無理やり持ち上げ




ハサミを探した。




確かキッチンにあったはずだ。
彼女は花びらを掻き分ける。




そのハサミで、街から異物を切り取るのだ。




「去るがいい。猫の姿をした、侵入者め」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ