死神と逃げる月

□全編
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《境界》




「始まり」を決め、「退屈」を知った彼女は




次に「窓」を探した。




それは言わば境界。




朝と夜、陸と海と空、この世とあの世。




境界はいつだって存在するはずだ。




例えば人が宇宙の果てを探すように、




彼女も「窓」を探した。




だけど、ここには窓がない。




だから彼女は絵を描いた。




天井には青空。




壁には窓。




どちらかと言えば、外から家の中を覗いているような構図だ。




それでいて、窓の中には木を描いた。




遠くに見える小高い丘に、一本だけ太い木を。




窓からはみ出るほど枝を広げ、深い緑色の葉を茂らせる。




そうして、彼女は愛用のソファから窓を眺めた。




彼女はこの窓の向こうへは行けない。




もし向こうに誰かがいたとしても、絵の外には出られない。




いつしか彼女は、この部屋を出てあの丘に立つ日を夢見ていた。




ああそうか、「窓」とは、「境界」とは憧れを教えてくれるものなのだ。




だから人は、見えもしない宇宙の果てを探し




届きもしない月を見上げるのだろう。




そして月は逃げるのだ。
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