死神と逃げる月

□全編
245ページ/331ページ

《折り紙・2》




山折り。




谷折り。




一度開いて、また折って。




決して切ったり破いたりすることはなく




ただ折るだけで、形を作っていく。




日傘の女性は、大好きな散歩に出ることもしないで




リビングのテーブルに折り紙を広げた。




久しぶりに見る色鮮やかな花畑。




ひとつひとつ花を摘むように折り紙を取り




記憶を辿っては、時々折り方の本を見ながら折っていく。




「動物園だ!」




いくつかの作品が仕上がったところで、子供の声がした。




小さなヒーローのご帰宅だ。




いつもなら玄関の物音を聞きつけて、日傘の女性は「お帰り」と出迎えるところだが




折り紙に夢中で気が付かなかったようだ。




片や英雄気取りの小学生も、いつもなら「お帰り」を振り切って自分の部屋に向かうところだが




しんと静まり返ったリビングが気になって、覗いてみたところそれがあったのだ。




「そう、動物園」




テーブルの上にはライオンやキリン、ゾウなどの形に折られた折り紙が




うまくバランスを取るようにして、立てられている。




「これ全部、折り紙で作ったの?」




「本物の動物園に行くのはもう少し先になるけど、今はこれで我慢してね」




まだ仲良し小好しという訳ではないけれど




前よりは自然に会話も交わせるようになってきている。




その小さな変化が、彼女には何より嬉しかった。




「次、シマウマがいいと思う。シマウマがいいよ」




英雄気取りの小学生に急かされて、縞模様ってどうするんだったかしらと本を開く。




また山折り、谷折り。




日常もそうやって小さな変化を積み重ねて、いつか何かの形になるのかもしれない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ