死神と逃げる月

□全編
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《Sphinx》




始まりを探す彼女には、知らないことが沢山あった。




だからいつでも何かを探してしまったし




ようやく見つけたかと思えばまた、新たな疑問が浮かび上がる。




『スフィンクスみたいだな』




いつだったか、そう言われたことがある。




よく食事を共にした、あの鼻歌の人からだ。




『どうして?』




彼女がそう訊き返すと




『ほら、それさ』




と笑っていたのを思い出す。




『君といると問いかけばかりだ。まるでスフィンクスに試されているような気になるよ』




スフィンクスと言えば、なぞなぞで知られている。




朝は四本足




昼は二本足




夜は三本足




これ、なーんだ。




答えられなければ食われてしまうのだ。




『そんな化け物と一緒にしないで』




彼女がふくれると、その人は慌ててこう返した。




『楽しいんだよ。君といると辛いことも忘れられる』




そういうところが、ズルい人だなと思っていた。




だけどやっぱり、スフィンクスは好きにはなれない。




あれは人間の「恐れ」から生まれた怪物だと言われている。




各地の伝承によって姿が違うのも




その土地土地で、恐れられていた人物や動物を合成した姿だからだそうだ。




彼女は、他の誰から恐れられても構わないけれど




その人にだけは、そういう目で見られたくないと思った。




もちろんそんな意味でスフィンクスに例えた訳でないのは分かっていたが




昔の彼女は確かに、人から恐れられる存在だったような気がするし




それが少し悲しかった。




だからその人にだけは、怖がらないでほしかったのだ。
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