死神と逃げる月
□全編
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《Q&A・11》
長かった夏休みもやがて終わり、二学期が幕を開ける。
小学校に久々の始業チャイムが鳴り響いていた、その頃。
「たーん!」
英雄気取りの小学生は無我夢中で走った。
何処へ向かっているのかなんて分からない。
ただ、逃げ出したかった。
「えい!たーん!」
学校で待ち構えている、意地悪なクラスメイトから。
困ったような笑顔で自分を見る、カサお化けから。
秘密基地もなくなってしまった、居心地の悪いあの街から。
強がりヒーローは敵のいる世界から、早く逃げ出したかった。
「たたーん!」
子供の足とは言え、もうだいぶ遠くまで来ただろう。
いや、デタラメに走っていたから
回り回って、街の近くまで戻ってしまったかもしれない。
ここは何処だろう。
「たん!たー……」
リコーダー片手に、大声を上げながら立ち回る少年を
じっと見つめる女の子がいた。
まだ幼稚園に通っている年齢だろうか、小さな小さな女の子だ。
「あの…ここは何ていう場所ですか」
女の子に問いかけてみるが、ポカンとしたまま答えない。
それどころか反対に、こんな質問を返してきたのである。
「なにをしているの?」
何、と言われても自分でも分からなかった。
ただ学校に行きたくなくて
家にも帰りたくなくて
気付いたら走り出していただけ。
一体何をしているんだろう。
これは何と呼べばいいのだろう。
「僕は」
合っているかな。
うん、多分そうだ。
「僕は、家出をしているんです」
その時、風呂敷マントが風に靡いて
今の僕は本当にヒーローみたいだ。
少年は思った。