死神と逃げる月
□全編
218ページ/331ページ
《空き缶・2》
ガランガラン。
ガランガラン。
早朝の街に、響く音。
そのたびゴールデンレトリバーのハナは、耳を塞ぎたくなる。
この音は空き缶の音。
よく駅前の公園にいるおじさんが、ごみ集積所から空き缶を取り出す音。
いいのとダメなのがあるらしく、全部は持っていかない。
「近頃はアルミも安いからな。小遣い稼ぎにしかならない」
ブツブツと何かを言いながら、空き缶を選り分けていき
その後は必ず、散らかっていたゴミを綺麗に片付ける。
そしてまた別の集積所に立ち寄り
ガランガラン。
ガランガラン。
「…BOW!」
だんだん耳障りになってきて、ハナは一声文句をつけた。
「おお、お前か。朝から元気のいいやつだな」
吠えられたのに、嬉しそう。
寂しがり屋なのかしら。
ハナは拍子抜けしてしまって、お好きになさいと大あくび。
「家があるってのは、いいことよなあ」
ハナの犬小屋を見て男はしみじみと呟いた。
「帰る場所があるってだけでな、それだけで強く生きていけるもんだぜ」
そういうものなんだろうか。
ハナは青く透き通った空を見上げて溜め息を吐いた。
なら早く、可愛いあの子も帰って来ないかしら。
帰る場所はここにあるのだけど。