死神と逃げる月
□全編
217ページ/331ページ
《緑》
始まりを探す彼女は目を覚ますと
真っ先にそれに気が付いた。
切らしてしまったはずの、緑色の重たい煙が出る煙草の葉。
テーブルの上にそれが置かれている。
しばらく彼女は、眠りの世界と現実との区別がつかず
まだ寝惚けているのかと、自分に呆れ加減でいたのだが
どうやらそれが現実に目の前に置かれていると分かると
辺りを警戒しながらも、「おお」と声を上げて喜んだ。
何せお気に入りの煙草だ。
しかし一体誰が。
そう言えば、先ほどまで夢を見ていた。
うまく思い出せないが、その中で誰かと会っていたように思う。
煙草を置いて行ったのも、その人物か。
そんなふうに考える彼女は、やはりまだ少し寝惚けているらしい。
それもそのはず、寝る前に引っくり返した砂時計を見れば
まだ2割ほどの砂が落ちずに残っている。
いつもより幾分早く起きてしまったようだ。
もう一度、ゆっくりと瞼を閉じる。
次に目が覚めた時には、煙管を一服飲もうじゃないか。
想像していると、胸の辺りがじんと温かくなる。
この煙草の葉には心を落ち着かせる作用があるのかもしれない。
誰だか知らないが、このところの不安に苛まれる彼女を見かねて
恐らく譲ってくれた者がいるのだ。
一体この部屋の外には誰がいるのだろう。
どんな世界が広がっているのだろう。