死神と逃げる月

□全編
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《地球は任せた》




学校からの帰り道、春の雨に襲われた。




確かに朝から怪しい空模様だったけど。
せっかく置き傘していても使わなければ意味がない。




こんなだからオレは、暢気な奴だって言われるんだろう。




「この雨、怪しいぞ」




誰に向けて言っているのか。
小学生くらいの男の子が腕組みしながら空を見上げた。




「この雨もバックギャモンのしわざだな」




ここは喫茶店の店先。
先ほどからオレはこの男の子と雨宿りをしている。




「バックギャモンは、悪の秘密結社なんだ」




また声がして目をやると、男の子の方もオレを見ていた。




やはり男の子が語りかけている相手は、オレしかいない。




さては、お前も奴らの手先だな。
そんな目でこっちを見ている。




「オレは、君の味方だよ」




「ウソだ。味方だって言うなら証拠を見せてみろ」




咄嗟にオレは、鞄に付けてある古いバッジを見せた。
子供の頃に好きだった特撮ヒーローに出てくる、「地球防衛軍」のバッジだ。




未だにこんなものを持っているから、やはり暢気な奴だって言われるんだろう。




「オレの方が少し先輩だな」




男の子はバッジをじっくり観察する。




きっと男の子はオレの好きだったヒーローを知らない。




それでもデザイン的に正義の味方っぽさを感じたらしく、オレに向かって恭しく敬礼をした。




「どうだ。オレと一緒に地球を守らないか」




試しに男の子を地球防衛軍に誘ってみた。




そう。確かあの特撮ヒーローの第1話も、初めにそうやって誘われるんだ。
目の前で敵を豪快にやっつけた、先輩ヒーローから。




「いえ地球はちょっと…大きすぎて僕の手に負えませんので」




急に敬語なんか使って、まるでオレの方が子供扱いだ。
かと思えば、




「僕はこの街を守るので精一杯だ!地球は任せた!」




そんなようなことを叫びながら、男の子は雨の中を走って行ってしまった。
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