死神と逃げる月

□全編
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《正反対、共通点》




「こんにちは」




病院を出たところで漫画家の彼女は、日傘を差した女性に声をかけられた。




あ、えーと。
この人知ってる、誰だっけ。




「先日は似顔絵をありがとうございました」




ああ。そうか。




弱虫ヒーローのお母さん。




いや、まだお母さんじゃないのか。




「いえ、あんな粗末な絵しか描けなくて」




「そんなことないですわ。綺麗に描いていただいて」




それは、あなたが綺麗だからですよーだ。




本当に私とは正反対。




綺麗で清楚で、華奢で大事にされて守られて




そりゃあ、20年とかずっと入院生活してたって考えると、どんなに辛かったろうと思うけれど




やっぱり、羨ましいな。




「あんなふうに絵が描けるなんて羨ましいです。私には何の取り柄もありませんから」




それなのに、この人は。




どうしてそんなに自信がないのだろう。




元々の性格か。
やはりそれも境遇によるものなのか。




綺麗で儚い花っていうのは、それだけで高い価値がつくというのに。




「もっと自信を持っていいと思いますよ」




「え?」




「お母さんの代わりになろうとしないで、あなた自身でいればいいんだと思います」




よく知りもしないのに、こんな物言い。




やっぱりこの人と私は正反対。




共通点なんて、女であることくらいだわ。




「…そうですね。ありがとう」




私も誰かにそんな言葉をかけてほしいのかな。




『君のままでいいんだよ』と。
誰かに認めてほしいのかな。




「今日は通院ですか」




問いかけると女性はにっこりと笑った。




朝顔の花が咲いたような笑顔だった。
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