死神と逃げる月
□全編
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《いつものように》
冬の冷たい雨の中を、郵便配達のバイクがやって来る。
「ごめんください」
その魚屋には郵便受けがなくて、配達夫の彼はいつものように呼びかける。
そうしたら、いつものように店番をしていた魚屋の娘が姿を見せて
「ご苦労さまです」
手紙をじっと見つめて大事そうに受け取ると、そのまま表へ顔を出した。
雨と、電車の音が聞こえる。
「もうすぐ雪になるそうだから、お気をつけて」
そう言ってまた店番に戻った彼女は、いつも誰からの手紙を待っているんだろう。
「やあ、ありがとう」
そう言ってまた配達に戻った彼の肩に、それから雪は降っただろうか。