死神と逃げる月

□全編
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《夢の中へ》




始まりを探す彼女はついに眠りに就いた。




先程までなかなか寝付けずに、探し物ばかりしていたはずだが




一体どのタイミングで眠りの扉が開かれたのだろう。




英雄気取りの小学生が神社で願掛けをしていた頃か。




魚屋の娘が自分の気持ちに素直になった辺りか。




写真好きの彼が魔法の呪文を唱えた瞬間か。




日傘の女性が黒服の男に感謝の言葉を述べていた間か。




もしかしてゴールデンレトリバーのハナが吠えた声も夢の中で聴いたのか。




6月の長雨が上がり虹が架かった時かもしれないし




銀色に光る電車が駅の2階にあるホームへと滑り込んだ時かもしれない。




いや、実はもっと早くに眠りに就いていて




街で起こったそのどれもが彼女の夢だったんじゃないだろうか。




そしてまた今も彼女は夢の中で




あてもない探し物を続けていることだろう。




今夜は、彼女にしては相当不安な夜だったようで




まるで泣き疲れた子供のように深く眠っている。




そう言えば、彼女の年齢に関しては何の情報もない。




銀河のように輝きながら揺れる長い髪は、それなりの年月を感じさせるが




顔つきだけを見れば、まだあどけない子供にも見える。




けれど煙管を好んでいたことからすれば、恐らく大人であることには違いないし




達観とも取れる落ち着きぶりは、むしろ何千年も生きた魔女のようである。




例えるならば




誕生から100億年以上も経過しながら、その寿命を推定すれば未だに生まれたての赤ん坊に過ぎないとも言われる宇宙。




彼女の寝顔はそれに似ている。
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