死神と逃げる月

□全編
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《No rain, no rainbow.》




雨。




雨。




毎日毎日、雨ばかり。




ゴールデンレトリバーのハナはずっと気分が落ち込んだままだった。




雨の多いこの時期を梅雨というらしいけど




本当に梅雨のせいかしら。




太陽みたいだったあの子が、いなくなってしまったからじゃないかしら。




そうだとしたら、この雨は




止まない雨になるんだわ。




このところハナは、そんなネガティブなことばかり考えていた。




そんなハナの目の前の道を、ワゴン車が通り過ぎる。




そこから少し行った先で静かに停まると、2〜3人の職員が傘を持って降りてきた。




「新人くん、こっちよ」




「すいません」




その声。
このニオイ。




新人と呼ばれた若い男の人に、覚えがある。




大きな傘で顔は見えないけれど




それは、以前文句ばかり言っていたあのセールスマン。




スーツから黄色いTシャツに着替えて、何だか別人みたい。




「おじいちゃん、こんにちは。お迎えに上がりましたよ」




斜向かいの家に入って行く。




あれから何があったのか知らないけれど、人は変わるものね。




人だけじゃない。
他の動物や植物も、空だって毎日生まれ変わっているわ。




例えば、雨の後には綺麗な虹がかかるもの。




そうね。




No rain, no rainbow.




この雨だって、いつかは。
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