死神と逃げる月
□全編
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《某国の元首・4》
「元首!これは一体どういうことなのでしょうか!」
君か。
どうしたも何もない。
君の任を解くと言っているのだ。
「自分はこれまで身を賭して元首にお仕えしてきました!」
分かっている。
「元首に背いたことなど一度もありません!」
それも、よく分かっている。
「それでは一体どうして!」
告発があったのだ。
君が他国の工作員だと。
わが国の壊滅を狙っていると。
いつも君が伝えている平和はでっち上げで
本当は既にミサイルの群れが打ち上げられようとしている。
君は私を油断させておき、一瞬の隙をついて
合図と共に一気呵成に攻め込み、陥落させようと画策している。
そう私の耳元に囁いた者がいたのだ。
「それこそ、でっち上げであります!自分がそんなことを考えているようにお見えなのですか!」
いや、恐らくは嘘なのだろう。
君の失脚を狙った何者かの陰謀だと考えている。
しかしその真偽など問題ではない。
問題なのは、僅かでも君を疑ってしまったことだ。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
味方だと思っていた相手が、実は敵だったのかもしれない。
そう思った時から、私にとって君は
傍に置いてはおけない、危険な存在なのだ。