死神と逃げる月
□全編
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《去り方》
出会いには訪れる保証がないが、別れは必ず訪れる。
命ある者ならば決して避けられない定めだ。
だからこそ大事なのは、出会い方より去り方なのではないだろうか。
始まりを探す彼女は戯れに街の様子を眺めながら、そんなことを考えていた。
最近この街からは二人の若者が去った。
一人は交通事故でその命を落とし、一人は大学の寮に入るため街を出たのだ。
物語の舞台から姿を消したという意味では、どちらも同じことであるはずなのに
やはりその去り方の違いは大きい。
少なくとも人間はそう感じるようだ。
彼女は次第にそれを自分の記憶と重ね合わせていった。
テーブルを挟んで共にミートローフを食べたあの人は
一体どんな去り方をしたんだろう。
あるいは、始まりを探す彼女の方が姿を消したのかもしれないが。
「喧嘩でもしたか。あまり後味の良い去り方ではなかったような気もする」
しかし、やはり思い出せない。
じれったいが、黒服からの返信を待つ他ないのだ。
考えているうちに、件の若者二人に愛着が湧いたらしい。
彼女は壁に描かれた窓の前に立ち、絵の具を手に取った。
「せめて絵の中で、一緒にいるといいさ」
なるべく仲睦まじい様子で可愛らしく描いてやろう。
時の止まったその場所ならば、別れが訪れることもあるまい。
「いや、それともこんな絵の中にさえ、いつしか終わりがやって来るのだろうか」
それもまた定めか。
彼女は頷きながら、筆を動かした。
そう言えば彼女はいつからここにいて、いつまでここにいるのだろう。
この部屋を去る日が来るならば、一体どんな去り方をするのだろう。