死神と逃げる月
□全編
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《花粉症》
始まりを探す彼女は、先ほどから薬箱を探していた。
頭が重いのだ。
彼女の、星を散りばめた銀河のような銀色の髪は確かに長い。
が、勿論そのせいで頭が重い訳ではない。
鼻もムズムズするし、目も痒くてたまらない。
普通に考えれば花粉症の症状である。
しかしそうなると「一体どこから花粉が舞い込んだのか」という話になる。
この閉ざされた狭い部屋の中、探すまでもなく侵入は不可能だろう。
「まさか、この窓じゃないだろうな」
彼女の言う「窓」とは、部屋の壁に描かれた絵の「窓」のことだ。
ここで彼女がその「窓」をよく調べていたら、向こう側で木が風にそよいでいることに気付いたかもしれない。
それにしても薬箱が一向に見つからない。
部屋中の扉という扉を開け、引き出しという引き出しを探ってみたのだが。
「後はここだけか」
彼女は知っている。
それは冷蔵庫だ。
開けると、小さなカップがいくつか並んでいた。
「ヨーグルトか」
ミートローフを食べる際にも開けたはずだが、こんなもの入っていただろうか。
そう言えば、ヨーグルトには花粉症の予防効果があったような。
教えてくれたのは、一緒に食事をしたあの人だったと思う。
「とりあえず、これで我慢しろということかな」
今更食べたところで、気休めにもなるまい。
そもそもこの部屋に花粉が入ってくる訳がないのだが。