死神と逃げる月

□全編
163ページ/331ページ

《花粉症》




始まりを探す彼女は、先ほどから薬箱を探していた。




頭が重いのだ。




彼女の、星を散りばめた銀河のような銀色の髪は確かに長い。




が、勿論そのせいで頭が重い訳ではない。




鼻もムズムズするし、目も痒くてたまらない。




普通に考えれば花粉症の症状である。




しかしそうなると「一体どこから花粉が舞い込んだのか」という話になる。




この閉ざされた狭い部屋の中、探すまでもなく侵入は不可能だろう。




「まさか、この窓じゃないだろうな」




彼女の言う「窓」とは、部屋の壁に描かれた絵の「窓」のことだ。




ここで彼女がその「窓」をよく調べていたら、向こう側で木が風にそよいでいることに気付いたかもしれない。




それにしても薬箱が一向に見つからない。




部屋中の扉という扉を開け、引き出しという引き出しを探ってみたのだが。




「後はここだけか」




彼女は知っている。
それは冷蔵庫だ。




開けると、小さなカップがいくつか並んでいた。




「ヨーグルトか」




ミートローフを食べる際にも開けたはずだが、こんなもの入っていただろうか。




そう言えば、ヨーグルトには花粉症の予防効果があったような。




教えてくれたのは、一緒に食事をしたあの人だったと思う。




「とりあえず、これで我慢しろということかな」




今更食べたところで、気休めにもなるまい。




そもそもこの部屋に花粉が入ってくる訳がないのだが。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ