死神と逃げる月

□全編
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《これから》




今日もまた手紙を出そうと、小さな封筒を手に商店街を歩いていた時




魚屋の娘は、珍しい光景を目にした。




郵便ポストのある場所の、ちょうど向かい辺り




シャッターが閉まったままになっている店の勝手口の方から、彼女もよく知る青年が姿を見せたのだ。




「何してるの」




「あ。やあ、こんにちは」




そこは八百屋で、一人息子である彼とは高校の同級生なのだが




家にいるところを見たのは初めてだ。




「これを取ってこいって、親父に言われてさ」と彼は写真立てを見せる。




彼の母親らしき人が写っていた。




「おじさん、大丈夫だったの?入院したって聞いたけど…」




「ああ。今すぐ命の危険ということはないらしい。でも精密な検査も兼ねて、もうしばらくはね」




「今度私もお見舞い行くね」




「ありがとう。きっと喜ぶよ。話し相手がいなくて退屈してるみたいだから」




彼女、八百屋の主人と特別親しかったという訳でもないけれど。




手紙を出しに来るたびに、笑顔で挨拶してくれたから何となく。




「これから、どうするの」




そして彼女は何とも漠然とした疑問を投げかけてみた。




「まだ分からない」




彼は首を振る。




いくら喧嘩ばかりの親子でも、突然の入院はさすがに応えているのだろう。




「私も、迷ってる」




「え?」




彼は「迷ってるって一体何をだい」という顔で見ているが




魚屋の娘は手紙をポストに入れると、「じゃあね」と手を振った。




このゴールの見えない文通を、これからどうしようか。




彼女は迷っていた。
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