死神と逃げる月

□全編
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《祝勝会》




ちょうどファミレスが入っている建物の近くまで来た時、暢気な彼からメールが届いた。




『ごめん。少し遅れる。先に入って待ってて』




もちろん、嘘吐きな彼女は最初からそのつもり。




何故なら、いつも待ち合わせに遅れて来るのは暢気な彼の方だから。




この間、図書館で待ち合わせをした時は奇跡的に立場が逆転していたけれど。




「いらっしゃいませー」




彼女たちは、揃って大学合格を果たした。




今日はその祝勝会なのだ。




喫煙席に目をやると、眼鏡をかけた女の人が紙をテーブルの上に散りばめて




イライラした様子でペンを動かしていた。




灰皿は既に煙草で埋め尽くされている。




漫画家さんなのかもしれない。




ひとまずドリンクバーだけ注文して、ジャスミンティーをテーブルに運び




天体が好きな彼に借りた本を読んで待つことにした。




それによれば、月の誕生には色々な説があるらしい。




地球と同時に誕生したという兄弟説や、




地球から分裂して出来た親子説。




そして今最も有力な説とされているのが




地球に衝突した小惑星が、そのまま地球の引力に捕まって回り始めたという説。




いずれにせよ、確かなことがひとつある。




月は少しずつ、本当に僅かではあるが地球から離れて行ってるのだそうだ。




やっぱり思った通りだ。




月は逃げている。




いつかはその手を離れて、どこか遠く宇宙の彼方へ飛んで行ってしまうだろう。




その時、地球は何を思うのか。




寂しい、なんて思ったりするのだろうか。
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