死神と逃げる月
□全編
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《合格通知》
こたつに寝転がって暢気な彼は、3年間の高校生活を思い返していた。
自分は幸せ者だなあと、最近よく思う。
穏やかなこの街に生まれて、将来の大きな夢を見つけられた。
それにちょっぴり嘘吐きで可愛い彼女もできた。
暢気に夜空の月を眺めていただけの日々だったのに、気付けば色々なものを手にしている。
だから大学入試も確実に合格しているだろう、という不思議な自信があった。
「…今、バイクの音がしたな」
こたつを出て玄関に向かおうとした時、ポケットから何かが落ちた。
受験当日に、彼女がくれた御守りだ。
合格祈願に神社で貰ってきてくれたらしい。
その彼女自身がこの御守りを家に忘れて、取りに帰ったせいで危うく試験に遅刻するところだったのだが。
しかも御守りには「交通安全」と書いてある。
それがおかしくて試験前にリラックスできたのだから、ある意味ご利益はあったのかもしれないけれど。
御守りを拾ってポケットに入れる。
「う……さぶ…」
外に出ると、郵便配達夫の乗ったバイクはもう向こうの角に消えるところ。
郵便受けからは大きめの封筒がはみ出していた。
封筒に大学の名前を見つけて部屋に持ち帰る。
「…よし」
中身を確認すると、暢気な彼はまたこたつに寝転がった。
彼女の方はどうだったかな。
受かっているといいな。
「交通安全」の御守りにお願いして、今度はこれから始まる大学生活に思いを馳せる彼だった。