死神と逃げる月
□全編
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《雪だるま》
今日は駅前の、ゲームセンターの上にあるファミレスで
受験が終わってお疲れ様会を、暢気な彼と二人だけでささやかに。
「揃って合格したら祝勝会だね」と次の約束も忘れない。
その帰り道、嘘吐きな彼女は道端に溶け残った雪をちぎって丸め
小さな雪だるまを作ってみせた。
雪だるまと言っても瓢箪のような形をしているだけで
目も鼻も口も手もない、ところどころ汚れた白い塊だ。
「ねえ、知ってた?」
彼女はまた何か嘘を吐こうとしている。
雪だるまを耳元へ持って行き、目を閉じて一言。
「私って、雪の声を聞くことができるのです」
若干芝居がかっていて、映画か演劇の台詞のよう。
「雪が喋るのか?」
暢気な彼は今日も大袈裟に驚く。
去年は雪が溶けずに生きてるとか言ってたっけ。
そんなことを思い出したりしながら。
「この雪だるまは何て言ってるのかな」
腹話術師か、はたまた絵本を読み聞かせる保母さんか。
分からないけれど、そういったものになりきっている彼女の様子を彼は見守る。
「まだ行かないでって。もう少し一緒にいたいって」
彼女がそんな心細いことを言うのは初めてのことだ。
受験の結果が心配で、弱気になっているのだろうか。
「喋るなら、これが必要だろ」
暢気な彼は小石を拾うと、雪だるまに目と口を作った。
「ありがとう」
小さな雪だるまはお礼を言って、また元の道端にそっと置いて行かれた。