死神と逃げる月
□全編
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《宿題》
「今どきの小学生は大変なんだね。宿題こんなにあるの」
嘘吐きな彼女は感心する。
「そうなんです、大変なんです」
英雄気取りの小学生は、優等生気取りで答えた。
土手を歩いた先にある整備工事中の山林には、この小学生が秘密基地と呼んでいる山小屋がある。
現在そこに立ち入ることを許されているのは彼自身と、特別許可証を持つ嘘吐きな彼女だけなのだ。
「この問題、分かりますか」
「ん、どれ?」
「これ。教えてください」
人にお願いをする時は、例えヒーローであっても謙虚でなければいけない。
彼は小学生なりにそれを知っていた。
「ていうかさ、そんな格好で寒くない?ここ窓もないよ」
子供は風の子と言うが、半袖短パンで何故平気なのだろう。
彼女の方はマフラーをぐるぐる巻いて、なるべく日向から動かない。
「寒くなったらそこで宿題終わり。あったかくなるまで街をパトロールするんだ」
「宿題、家でやればいいのにね」
小学生はそれには答えず、鼻をすすりながらこう言った。
「お姉さん頭いいね。よかったら僕の仲間になりませんか。もうバックギャモンじゃないんでしょ」
でもやっぱり寒くなってきたらしい。
英雄気取りの小学生は宿題をランドセルの中に片付け始めた。
「私ね、こないだ受験があったの。それに受かっていたら、この街を離れて遠くの大学の寮に入るんだ」
だから宿題も見てあげられないね。
彼女は笑った。
「でも大学生はヒマなんだって、父ちゃん言ってたよ」
そう言い残すと「僕はヒマじゃないのでこれで」と小学生は
英雄気取りでパトロールに出かけて行った。