死神と逃げる月

□全編
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《カサお化け》




漫画家の彼女がふらっと神社に立ち寄った時には、もう日も暮れかけていた。




「やあ神様。お賽銭あげるから色々と何だかいい感じにしとくれ」




財布に溜まった小銭を幾らかつまみ、パラパラと賽銭箱に投げる。




これで、世間があっと驚くような漫画のアイデアが、突然降って来ればいいのに。




最近、有り難い話がひとつあった。
けれどそれに乗るべきか否か、彼女はまだ迷っている。




その向こうに待つものは、さらなる挫折でしかないのではないか。




「くしゃん!」




境内の裏の方から誰かのくしゃみが聞こえる。




早速神様のお返事ですか、と彼女は苦々しく笑いながら覗き込む。




そしてそこに座り込んでいた、半袖短パンの小学生に声をかけた。




「何だ、お前か。早く帰らないとすぐ暗くなるぞ」




英雄気取りの小学生は一瞬「げっ」という顔をした。




先日みっともない場面を見られたせいだろう。




「今日は家にカサお化けがいるから」




「お化け?」




小学生は頷いた。
聞き間違いではなさそうだ。




「ヒーローでも、お化けが怖いか」




「怖くはないけど、帰りたくない」




毎日毎日一人で走り回って元気な奴だと思っていたけれど、それも何か家にいたくない事情があるのかもしれない。




学校にも家にも居場所がない。
思い返せば昔の自分にもそういう時期がなかっただろうか。




「じゃあ見かけたらやっつけといてやるよ。カサ以外に目印とかないのか」




小学生は左手を前に突き出して言った。




「包帯してた」




カサお化けっていうより、ミイラだな。
漫画家の彼女は思った。
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