死神と逃げる月
□全編
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《Q&A・5》
ある日の昼下がり、暢気な彼は不意に呼ばれて振り返りました。
時間に遅れた彼女がようやく来たのかと思いましたが、そこにいたのは幼稚園児くらいの小さな女の子。
「おにいちゃん」
女の子は小声で彼を呼びます。
何故ならそこは図書館の中。
この静かな空間で受験に向けて最後の追い込みをかけようと、彼は彼女と約束したのです。
「どうしたの」
暢気な彼はその見知らぬ女の子に、同じように小声で返事をしました。
「きいていい?」
何か訊きたいことがあるようです。
もしかしたら親とはぐれて迷子にでもなったんでしょうか。
「何かな」
「あのね、おにいちゃんのショウライのユメってなぁに?」
将来の夢ですって。
思いもよらない質問に驚きつつも、彼は答えます。
「お兄ちゃんの夢はね、世界から戦争をなくすことなんだよ」
「センソー?」
「そうだよ。そのために政治や外交の勉強をして、政治活動家になろうと思っているんだ」
暢気な割りに、いえ暢気な彼だからこそでしょうか。
大きな夢を持っているようです。
彼は今、とても難しい私立大学に入るために勉強中。
それも政治や外交について学ぶためなのです。
好奇心旺盛なナゼナニ女の子は、ポカンと口を開けています。
さすがに難しい話だったかな。
暢気な彼は思いました。
「あ…わかった」
女の子は頷きます。
「え、本当に?」
「おにいちゃんは、セーギカツドーカに、なる」
惜しい惜しい、あと一歩。
けれど、それも間違ってはいないのかもしれません。
暢気な彼は、子供の頃に憧れた地球防衛軍みたいな、正義の味方になりたいのかも。
「お兄ちゃんの邪魔しちゃダメよ。こっちにいらっしゃい」
女の子のお母さんらしき人が、やはり小声で呼んでいます。
ナゼナニ女の子は疑問が解けて満足そうに走って行きました。