死神と逃げる月
□全編
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《日向ぼっこ》
まだ昼間だというのに珍しく、猫のサチコは公園に来ていた。
あのブティックの中も暖房が効いていて居心地は良いけれど
駅前には少し背の高い建物が多いので、あまり日が当たらない。
(たまには日光を浴びないと体にも良くないものね)
公園のベンチには高校生くらいの男の子。
口元をマフラーに埋めながら、居眠りをしている。
(いいわね、暢気で。私もそうなりたいものだわ)
サチコは彼を起こさないよう、そっとベンチに飛び乗った。
気温は低いものの風はない。
日に当たってさえいれば寒さもじんわりと誤魔化せる。
それにしても本当に暢気な寝顔。
声を出しても気付かないんじゃないかしら。
『……昔々、ここから遠く離れた場所に綺麗な星があったわ』
サチコは小さな声で話し始めた。
案の定、暢気な彼は寝息を立てている。
『その星の文明は、ここよりだいぶ進んでいたわね。科学の力で何だって出来たわ。それこそ魔法みたいなことも』
猫のサチコは毎晩、UFOを待っている。
『その星に終わりが訪れた時、何人かの人間が宇宙船に乗って星を脱出したの。だけど途中で事故に遭ってしまった』
猫のサチコは毎晩、UFOを待っているのだ。
『そして、その中の一人が宇宙船を投げ出されて』
「んん…」
突然、彼が動いた。
目を覚ますかと思ったけれど、またすぐ寝息を立て始める。
彼の様子を見ていたら、サチコは居眠りをしない自分が損をしているように思えた。
せっかくの日向ぼっこだもの。
つまらない話はやめにしよう。
(続きはまた今度ね)
サチコはベンチの上に寝そべって、ゆっくり目を閉じた。