死神と逃げる月

□全編
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《援軍》




「おい、お前もう宿題の作文書いたのかよ」




嫌な奴らに会ってしまった。
英雄気取りの小学生は俯きました。




彼らに会わないように、いつもわざわざ遠回りして帰っているのに。




「なあ書いたのかよ。『お母さん』の作文」




「書いたのかよ」




それを言いたいがために、いじめっ子たちは待ち伏せしていたのです。




「…書いたよ」




いつもの「たーん!」とは比べ物にならないほど、小さな声で答えます。




「なら見せてみろよ。読んでやるから」




にやにやと笑いながら、いじめっ子の中でも一番大きな男の子がランドセルに手をかけます。




「やめろよ」




英雄気取りの小学生は振り払おうとしたけれど、小柄な彼では敵いません。




簡単に抑え込まれてしまいました。
地面についた膝がヒリヒリと痛みます。




「おい、こいつのランドセル開けろよ」




「どうせ入ってないんだろ」




「書けるはずないじゃん。だってさ、こいつ…」




口々に言います。




助けて。
小学生は心の中で叫びました。




助けてヒーロー。




「おい!」




突然誰かの怒鳴り声がしました。
大人の、乱暴だけれど女性の声です。




「お前ら何やってんだ!」




その瞬間いじめっ子たちは、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出します。




中には慌てて転んだ子も。




そして5秒もしないうちに、いじめっ子は一人もいなくなりました。




「…お前、ヒーローのくせに弱いんだな」




助けてくれた彼女は、海岸沿いの家に住む漫画家でした。




「大丈夫かよ。ああ擦りむいてんじゃん。見してみな」




「……」




小学生は、礼も言わずに走って行ってしまいました。




「おい、待てって!」




漫画家の彼女は呼び止めますが、振り返りません。




小さなヒーローは、弱い自分を見られたことが恥ずかしかったのでしょうか。
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