死神と逃げる月
□全編
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《キュウリが安い》
恐ろしい秘密結社「バックギャモン」の手下は、街の至るところにいるのです。
だから英雄気取りの小学生は、学校が終わると毎日のようにパトロールに繰り出します。
今日は、八百屋へやって来ました。
「気をつけろ。野菜型の爆弾がいっぱいだぞ」
胸のバッジはトランシーバー。
ヒーローはこうして仲間と連絡を取り合うのです。
「今日はキュウリが安い。敵が弱っている証拠だな。今なら行けるぞ」
それからバッジに耳を向けて、うん、うんと二回うなずき、勢いよくヒーローは飛び出します。
驚いた八百屋の主人に、必殺のスカイビーム。
「やい、悪者め!僕が相手だぞ!それ、たーん!」
「え?ああ、坊主か。今日はどうしたんだい」
「そのキュウリに悪魔が潜んでいるんだ」
「ほう」と呟くと八百屋の主人は、なるべくゴツゴツしたキュウリを二本選び、両手に持って小学生に襲いかかりました。
「そうさあ、うちのキュウリは悪魔のキュウリ。よく見破ったな、坊主」
「うわっ、やめろ。くそ。ここは一時退却だ」
無理はしないのがヒーローの掟。
何故ならヒーローは簡単に負ける訳にはいかないからだ。
「はははは。参ったか」
英雄気取りの小学生は、なぜか肩をおさえながら悔しそうに叫びます。
「また来るからな!次は負けないぞ!」
「おう、またいつでも遊びに来いよ。坊主」
八百屋の主人はキュウリを持ったまま、小学生に手を振りました。
「あ、はい。ありがとうございました」
礼儀よく頭を下げると、小学生はまたパトロールの続きに走って行くのです。