死神と逃げる月

□全編
129ページ/331ページ

《伝説の》




写真好きの彼は、改札の前で腕時計を確認した。




待ち合わせの時間にはまだ余裕がある。




それまで駅前の公園でもぶらぶらしようか。




「…久々に会うのは緊張するな」




彼には師匠と仰ぐ写真家がいる。




その人と、今日会うことになっているのだが




何か重要な話があるのだとか。




「お前にとっても悪い話じゃないと思う」と言われたが、一体何だろう。




「あ、あの子…」




公園は大きな広場と自然豊かな緑地で構成されている。




その広場の真ん中に、以前会った小学生の男の子を見つけた。




「たーん!それ!」




相変わらず英雄気取りで、周りの大人には見えない悪者たちと戦っているらしい。




子供は風の子、こんな冬でも元気だな。




「おーい」




彼は男の子に声をかけた。




撮った写真を渡す約束をしていたのだ。




「あっ」




男の子の方も彼のことを思い出したようで、まるで特撮ヒーローのごとく颯爽と駆けてくる。




「僕の写真?」




写真好きの彼は、表紙に「Little hero」と書かれた小さなフォトアルバムを取り出す。




いつ会えるかも分からないから、最近は常に持ち歩いていたものだ。




自分の勇姿に、男の子は「わあ」と嬉しそうな声を上げ




「なんか、伝説の、みたい」




と言った。




「伝説の?」




「はい、伝説の」




伝説の、何なんだろう。




「伝説の、みたいです」




気になるが、もう行かなくては。




そろそろ師匠が駅に着く頃だ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ