死神と逃げる月
□全編
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《雨漏り》
「やれやれ、困ったものだ」
始まりを探す彼女は、天井から滴る水に溜め息を吐いた。
一体この部屋の外は今どうなっているのだろう。
やはり雨が降っているのか。
それとも別の理由で、例えば上の階にも部屋があって水漏れを起こしているとか。
彼女はこの部屋から出たいと思うことはあったが、部屋の外がどうなっているかなんて今まで考えもしなかった。
少なくとも彼女の描いた天井画は、晴れ晴れとした青空なのだが。
それに窓の向こうでも雨など降ってはおらず、木が風にそよいでいる。
いや、それも絵だ。
そよいでいるように見えるだけの。
「ひとまず水滴を何かで受けなければ」
適当な器を見繕ってそこへ置く。
小さな小さな滴が、目では分からないほどの僅かなスピードで器に溜まっていく。
それと同じスピードで、部屋の外からは水が減っているのだろうか。
彼女は想像した。
この小さな一滴から生まれる命もあれば
この小さな一滴で滅びる星もあるのかもしれない、と。
何も大袈裟な話ではない。
それくらいの小さな滴の積み重ねが、宇宙を作ったのだから。
「しかし今はそれどころではないのだ」
しばらく待てば、収まるだろうか。
この部屋で雨漏りなんて初めてのことだ。
少なくとも彼女がこの部屋に来てからは、体験したことがなかった。
何かが起こりつつあるのかもしれない。
彼女が見上げる中、天井の青空から水は滴り続けていた。