死神と逃げる月
□全編
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《年賀状》
まだ来ない。
まだ来ない。
嘘吐きな彼女は待っていた。
年が明けて、もう7日目。
大事な勉強の手も止まりがち。
彼女にとっては少し難易度の高い大学を目指している。
こんなことでは合格できないよ。
だけど、「送っといたから」って言われたら待つしかないじゃない。
「…そろそろかな」
窓を開ける。
冷たい。
姿は見えないが、確かにバイクの音が聞こえる。
彼女は薄い上着をひとつ羽織って、階段を下りた。
バイクはあの角を曲がって、もうすぐこの家に着くはずだ。
彼女はそっと廊下を通り、玄関の鍵を開けると表に出た。
「やあ、どうも」
タイミングはバッチリで、郵便配達のバイクがちょうど家の前に停まったところだった。
「来てますか」
郵便配達夫はバイクから降り、彼女に葉書を一枚手渡す。
それを見た彼女の表情が少し綻んだ。
まるで雪解けのようだな、郵便配達夫はそんなふうに思ったかもしれない。
「ありがとうございます」
やっと届いた。
彼女には付き合って一年ちょっとになる恋人がいて
彼はとても暢気なので、年賀状も元日には届かない。
ともかく待ち焦がれたものをようやく手にした彼女は
暢気な彼と同じ大学を受験するため、また勉強机に戻るのだった。