死神と逃げる月
□全編
107ページ/331ページ
《ヒーローの仕事》
ヒーローの仕事は、悪と闘うばかりじゃない。
例えば道に落ちている空き缶。
誰かが踏んづけて、転んで怪我でもしたら大変だ。
だからくずかごを探して入れるんだけど、もちろんヒーローだから普通には入れない。
三歩下がった場所から格好よく投げて入れるのだ。
「行くぞ!たーん!」
大丈夫。
入らなかった時のこともちゃんと考えてある。
跳ね返る方向を予測して、すかさず拾い
無理な体勢から格好よく投げて入れるのだ。
一発で入るよりも、こっちの方が断然格好いいと思っている。
「これでどうだ!たーん!」
今日は三回まで投げていいことに決めた。
もう一度拾おうとした時、僕は別の仕事を見つけた。
交差点を、お婆さんが渡ろうとしている。
周りは塀に囲まれて見通しが悪いし、信号のない交差点だから危険だ。
僕は空き缶を一旦くずかごの脇に置く。
後できちんと、格好よく投げて入れるのだ。
それからお婆さんを呼び止めると、先に行って安全を確認してからお婆さんの手を引いてあげた。
「ありがとう。坊や偉いんだね。何年生だい」
「僕はヒーローだから、名乗ったり自分のことは明かせないんだ」
ヒーローには秘密が大事だ。
「だけどお婆さんには特別に教えます。四年生です」
そしてヒーローには礼儀も大事なのだ。