死神と逃げる月
□全編
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《Q&A・4》
「サカミチは、どうしてナナメなの?」
「ソラのクモはどうしておちてこないの?」
「ユービンキョクのドアは、どうしてひとりでにひらくの?」
ナゼナニ女の子は幼稚園から家まで帰る途中、疑問の尻尾を捕まえながら歩きます。
誰も答えてくれない時は自分で一言。
「フシギだね」
郵便局の角を曲がり、民家の立ち並ぶ道に入ります。
女の子の家はこの道を行った先。
その少し手前で、ふわふわした尻尾が揺れているのが見えました。
犬小屋の陰に寝転んでいたのは、ゴールデンレトリバーのハナです。
ナゼナニ女の子は怖がる様子もなく、ハナの尻尾を捕まえました。
「イヌさんは、どうしてシッポがあるの?」
小さな女の子の手で尻尾を握られたまま、ハナはじっと我慢しています。
女の子が、今度はハナの耳を掴みました。
「イヌさんは、どうしてミミがおおきいの?」
困ったような表情を浮かべながら、ハナは我慢を続けます。
ハナは、飼い主の女の子がまだ小さかった頃に貰われてきたので
子供に触られることには慣れていて、いきなり吠えたりはしません。
女の子はハナの前足を持ち上げました。
「イヌさんは、どうして4ほんあしであるくの?」
いくら訊いてもハナは、目を逸らして何も答えてくれません。
そもそも犬が人の言葉を喋ることなんてできませんが。
「フシギだね」
ナゼナニ女の子は、ハナを触るだけ触って帰っていきました。
「…BOW」
女の子の姿が見えなくなってから、ハナは1回小さく吠えました。