死神と逃げる月
□全編
104ページ/331ページ
《Q&A・3》
11月に入り、乾いた空気がだんだんと冬の気配を感じさせる。
嘘吐きな彼女は新しく買ってもらったコートを着込み、郵便局の角を曲がった。
今日、暢気な彼が風邪をひいて学校を休んだのでお見舞いに行くのだ。
大事な受験も控えている。
体調管理には気をつけないと。
これからのことを考えながらイチョウ並木の坂を下る。
その途中、彼女は小さな女の子を見つけた。
「どうしたの?」
難しい顔でイチョウの木を見上げているから、風船でも引っかかっているのかと彼女も見上げた。
しかし木の上には何も見えない。
「何か困ってるのかな?」
しゃがんで話しかけると女の子は、木を見上げたまま訊いてきた。
「どうしてアキになると、はっぱがキイロくなったりアカくなるの?」
ああ、そういうこと。
この子は好奇心旺盛な、ナゼナニ女の子。
嘘吐きな彼女は少し考えてから、女の子の胸に留めてある赤い名札を指差してこう言った。
「あなた、幼稚園の年長さんでしょ」
そこでようやく振り向いた女の子は、林檎のように真っ赤な頬っぺをしていた。
「あそこの幼稚園、私も通ってたんだ。名札の色がね、年少さんは緑、年中さんは黄色、年長さんになると赤になるの」
ナゼナニ女の子は頷く。
「それと同じでね、葉っぱも秋になると進級して黄色や赤に変わるんだよ」
もちろんそれは、彼女のお決まりの嘘。
だけどナゼナニ女の子はそのまま信じたみたい。
嘘吐きな彼女の顔をじっと見つめて、驚きと納得の中間のような顔を浮かべる。
そして一言。
「はっぱもシンチューしてアカくなる」
そうそう偉いね、と嘘吐きな彼女は女の子を褒めてあげた。
「じゃあ、わたしの方がオネエサンね」
最後にそう言った女の子。
すぐには意味が分からなかったけど、女の子と別れてしばらくしてから彼女は気付いた。
赤い名札の自分と黄色い葉っぱのイチョウ。
年長さんと、年中さん。
ああ、そういうこと。