死神と逃げる月

□全編
101ページ/331ページ

《神様》




昨夜もUFOは現れなかった。




猫のサチコは半ば諦めかけている。




信じて待ち続けるのは辛いもの。
誰かがピリオドを打ってくれたらと思ったりもする。




風の噂では、この街のどこかに息子の帰りを待ち続けているお婆さんがいるらしい。




(お婆さんも、私と同じような気持ちなのかしらね)




サチコのいるショーウィンドウの前を、男が通り過ぎた。




秋冬物の割りには派手な配色が並ぶそのブティックには、全く似つかわしくない黒服の男だ。




『ハロウィンならもう終わったわよ』




サチコは手のひらを舐めながら言った。




「これは仮装じゃないよ。死神のフォーマルさ」




黒服は答える。




『あら、それは失礼。どこ行くの?』




「死神の仕事も色々あってね。下見とか」




『ちょっと、このお店の前で事故とかやめてよね』




「ご安心を。それに俺が事故を起こす訳じゃないさ」




(どうだかね)




サチコは舐めた手のひらで顔を洗う。




『ねえ、あなたも一応神様なんでしょう?願い事とか叶えたりできないの?』




もちろんサチコの願い事とはUFOのことを指している。




「他の神様にお願いしてくれ」




『そうね。期待はしていなかったけど』




「すまない」




『じゃあ願い事がある時、あなたは誰に祈るの?死神のあなたにとっても神様みたいな存在っているのかしら』




「俺にとっての神様か。そうだな、いるよ」




『どんな?』




「彼女はいつも独りで探し物をしている。何度も手紙を出してるんだが返事はくれない。そういう存在だ」




『何それ。ちっとも有り難くないわ』




「有り難いさ。見守ってくれるだけでもね」




神様ってのはそういうもんだ。
黒服の男はサチコに手を振り、駅の方へ歩いていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ