死神と逃げる月
□全編
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《折り紙》
秋を通り越して、冬の気配も漂うような寒い日でした。
そろそろ冬物の服でも買っておこうかと、日傘の女性は駅前のブティックに立ち寄ります。
彼女が以前、子供用のジャンパーを買ったお店です。
「ごめんください」
こういうお店もまだ慣れないので、まずは礼儀正しく挨拶から。
店主のおばさんは、常連らしいお客さんと談笑中のようでした。
日傘の女性はお喋りの邪魔にならないように、店内を静かに見て回ります。
「…これなんて派手かしら」
彼女はどちらかと言うと素朴なデザインの物が好みでしたが
このお店は少し上の年代向けなのか、花柄などの割りと派手な服が多いみたい。
『あら、あなたなら何を着ても絵になるわよ』
そんな声が聞こえて、てっきり店主が話しかけてきたのかと思い振り向くと
ショーウィンドウの傍で丸くなっていたのは、猫でした。
店主は相変わらずレジの近くで世間話に忙しそうです。
「今、何か言わなかった?」
恐る恐る猫に訊いてみましたが、あくびをするばかりです。
よく見れば、雪のように鮮やかな白い毛並み。
そう。
派手な柄物よりもこの猫のようにシンプルで清潔なデザインが、彼女は好みなのです。
「そう言えば昔よく折ったわ。折り紙の猫」
病院にいた頃、彼女は様々な退屈しのぎを試しました。
中でも折り紙は、割りと長く続いた方で
猫の他にも、お花や星、船なんかも折ったものです。
「…久しぶりに折ってみようかしら」
呟いてまた、冬物の服を選びだします。
真っ白な猫は、その様子を優しく見守るのでした。