死神と逃げる月
□全編
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《猫になる前》
やっぱりそうだわ。
彼女、見たことがある。
いつだったかしら。
どこだったかしら。
ブティックの前の交差点にある歩道橋を歩いている、高校生と思われる彼女。
ショーウィンドウから見上げる私。
確かあの時も、似たようなシチュエーションだったはず。
いつだったかしら。
どこだったかしら。
そうだわ。
あれは学校だった。
一年前、雪の降った数日後。
彼女は二階の廊下の窓から、私を見ていた。
まだ私が、猫の姿ではなかった頃。
誰も見ていないと思って、そっと校舎の陰に隠れようとしたところを
彼女は見ていた。
私のことを誰かに話したかしら。
彼女は嘘吐きのようだから、誰も信じなかったかもしれないけれど。
それから私は猫になり、このブティックに拾われた。
そうね、思えばこの街で最初に会ったのが彼女だった。
だけど不思議と、それだけではないような気もしている。
もっと前に、私は彼女を知っていたような。
どこか他人とは思えないような。
いつだったかしら。
どこだったかしら。