小説(パラレル)

□曼珠沙華
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「あ」

真っ白な花を抱えた黒髪の少年は立ち止まった。

少年の視線の先には、橋に立っているひとがいる。

長くのびた金髪を後ろで結わえている。結界師の衣装を着ていた。

たまに見かけるひとだ。

微笑みを絶やさないひと。

日本国にめったに見かけない容姿の結界師は、
ある日、流れついたらしい。

彼は白鷺城に、連れてこられたが、なにも言葉を発することができなかった。

声がでなかったのだ。

今も。

ただ、魔力が巨大だったため、

天帝と、月読である知世姫が、反対する大臣たちを説き伏せて結界師の職についた。

そんな人物が、数メートル先にいる。

なにかを見ているようで、表情は悲しげだった。

なにか声をかけたくて、でも、自分はなんの関係もない他人だというのを少年…黒鋼は突き付けられる。

なにかきっかけを。

考えて、そうだ、と思い付く。

本当は、花は知世姫からの別件のものだが、たくさん花は咲いていたから戻って摘めばいいだろう。

ぱたぱた走っていけば、ゆっくりと人物は振り返った。

空を映したような目が黒鋼を、不思議そうに見つめている。

肌が雪のように白い。
白を基調とした、結界師の袖が風ではためいた。

間近で見たことがなく、黒鋼はわけもなくドキドキした。

「あの、これ」

黒鋼が花を差し出す。

?と結界師は頭をかしげた。

「やる!」

顔が赤く染まって、黒鋼は踵をかえした。元の道を一目散に走る。

ちらりと後方を見れば、結界師は花を抱えて花を見つめている。

頬が赤く染まっているように見えて、
美しい絵巻のようだ、と黒鋼は思った。


◇◇◇◇◇
(なんでこの花なのかなぁ)

逃げるように行ってしまった少年を思いだしながら、花を抱えてぺたぺた結界師は歩く。

花は、曼珠沙華だ。

結界師…ファイは眉を下げる。

もう一人の片割れを思い出す。

彼はもうこの世にはいない。

病で亡くなってしまった。

今日は命日だ。

この世界でたった一人の大事なひとだったのに。

片割れの名前は、ファイ。

真名は、ユゥイ。

亡くなった片割れの名を、結界師は名乗っている。

「ファイさん。そちらにいらっしゃいましたの」

声をかけられて、ファイは顔をあげた。

知世姫だ。

彼女は口の動きをよんで言葉をしるのにたけており、ファイとは良好な関係にある。

「あら。まぁ。花はファイさんへわたりましたのね…」

知世姫がファイの抱える花束に気づき、呟いた。

え?とファイが思っていると、これを、と、知世姫が持っていた本のとあるページを指し示した。

花言葉がたくさん載っている和綴じの本だ。

「その花は彼岸花。別名、曼珠沙華とも呼ばれますの。白い曼珠沙華ですから「また、会える日を楽しみに」ですわ。」

「…っ!」

ぽろっと、青い目から涙がこぼれでた。

涙は溢れて止まらなかった。

会いたい。

会いたくてたまらない。

ひとりぼっちにしないで。

知世姫がファイの手に触れる。

「貴方が今日の日にとても寂しそうに誰かを想っていらっしゃったものですから。私は外出を気軽にできないため、頼みましたの」

白い曼珠沙華を。

結界師に贈るために。

巫女の力は、万能ではない。

ファイの心を癒したりそんなことは出来ない。
最初に会ったとき、「死にたい」という思いをひどく感じた。

生気がなくて、精巧な人形のように感じた。

魔力は結界のために必要だった。
政治利用した、と言われれば、知世姫は否定はできない。

けれど、「生きてほしい」と願ったのも真実だった。

声をだすことができず涙を流すファイに、知世姫は寄り添う。

泣き止むまで、そばにいたのだった。



end.


 

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