小説(パラレル)

□たった一つの恋
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「……なんで、過去形なんだよ」

低く黒鋼が唸る。

「愛してる」じゃなく、「愛してた」とファイは言った。



ファイが俯く。

「だって……人間と鶴って、異種でしょう……?」

ファイは今にも泣き出しそうな表情で、一言告げた。


◇◇◇◇◇

黒鋼がファイと出会ったのは、
森の中だ。

寒い冬の日のことだった。

正確にいえば、青年の人間の姿の時のファイではない。

鶴の姿をしていた。

鶴が怪我をしていたため、狩人の黒鋼が手当てをした。

正体をかくして、「オレを君の嫁にしてほしい」ときたのが、ファイだ。

それから色々あり、二人は一緒に暮らしていたのだが。

冒頭へと戻る。

「だから、なんだっていうんだ。俺はそんなのはとっくの昔に知ってんだよ」

黒鋼は、ファイを見据えた。

ファイが黒鋼を見る。

澄んだ海の色。

「おまえ、俺と別れたいのか」

黒鋼の言葉にファイはびくっと震えた。

ファイは、鶴だ。

鳥の言葉ならたいていは分かる。

きっと嫌なことを言われたのだろう。



「わか…れてくれないの?」

蒼い瞳から涙がこぼれ落ちた。

「朝に出会った鳥に変なこと言われたんだろ」

「……」

ファイが黙る。

沈黙は肯定だった。

黒鋼がファイのそばに寄る。

「くろ、たん」

黒鋼は、ファイの手を握った。

「オレ、苦しいよ。心が痛いよ」

はらはらと涙が零れ落ちて行く。

「どうして、好きなだけじゃいけないの?黒たんの事が好きになっただけなのに」

大きな手がファイの涙を拭った。

「その痛み、半分寄越せ」

澄んだ綺麗な蒼が、黒鋼を見る。

「俺だって、おまえに惚れてるから一緒になってんだ。それで十分だろ」

「黒、さ……ま」

さめざめと泣く金髪の青年を、黒鋼は抱きしめる。

悩んだら、非常に悩むタイプだ、ファイは。

あっけらかんとしているようで、本当はそうではないのを黒鋼は知っている。

黒鋼は、そのままファイが泣き止むまで抱きしめていた。



end.




*****

コピー本ネタ。

童話やおとぎ話がテーマの黒ファイパラレル本を出す予定で、そこに収録予定のお話の番外編です。

これだけでも読めます。

ちなみに今回は、「鶴の恩返し」がテーマでした。

夏インテに発行できるよう頑張ります。


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