「痛いよ、旦那」

忍びは眉を寄せた。俺が腕を掴んで放さないからだ。


「この傷は何だ」

肩から脇腹にかけて、一列に並ぶ無数の傷。
一寸程度のその切り傷は、明らかに意図的につけられたもので
肌を出さない忍びだとは思っていたが、まさかこれを悟られぬ為とは思わなんだ。
はて、どうしたものか。


「死の数だよ」
忍びは呟き、僅か目を細めた。
その顔に堪らなくなり、俺は忍びを抱き締めた。

傷口に唇を寄せ、犬歯を立てた。
忍びは黙ったままだ。

「何故黙っていたのだ」
舌を這わせると、鉄の味がした。

「だって、あんたに言っても意味なんかないよ」
決して消えたりはしないんだから、と続けた。


「しかし、傷付けたところで、解決せぬのは同じことであろう」
真っ直ぐに見詰める眸は僅かに揺らいだ。

「放して、」

「放さぬ」
お前は俺の忍びだ。

「……もういい、解った」
好きにすればいいよ、と抵抗の一切をなくした忍びに
俺は無性に腹が立った。
そして同時に、堪らなく愛おしかった。



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