「ツっくん!」

「京子ちゃん?」

「ツナさん!」

「ハル?」

「「おはよう!」」

「おは、よう…?」

あれ…何か、変だ。



*******ハニートラップ?



現在時刻は8時5分。


歩き慣れた通学路を行き交う人々は、みんな忙しなく歩いていて。それでも、輝くような眩しさを忘れない学生服に身を包んだ同級生は、それぞれ笑顔で挨拶を交わしていた。


かくいう俺も、その一人。


そして、何故か今日は。普通の人から見たら実に羨ましい限りだろう状況で、美女2人に挟まれての登校。右側には京子ちゃん、左側にはハル。


2人とも中学からの友人なので、俺としては別に何の問題もないのだけど。傍目から見れば、彼女達はファッション雑誌に載っていても不思議じゃないほどの容姿の持ち主で。


俺に恋人がいる事を知っている人間からしたら、これはもう浮気を疑われても仕方がないというか、何というか。とにかく、今日は何かが変なのだ。


「ね、どうしたの?」

「どうしたって、何が?」

「いや…、」


何が、って聞かれても。


この状況が、だよ。可愛らしく小首を傾げた京子ちゃんは、今の会話をまるで無かった事にするかの如く、反対側にいるハルとナミモリーヌの新作ケーキの話題で盛り上がっていた。


っていうか、この状況。


これって非常にマズイんじゃないか、俺。だって俺には曲がりなりにも愛する恋人がいるわけだし。っていうか、これからその彼女を迎えに行くわけだし。


「ね、2人とも…」

「なに?」

「なんですか?」

「近い。近いから!!こんなとこ見られたら、レイチェルに怒られるから、俺」

「えー、怒られるどころか、別れるって言われたりして!」

「はひ!修羅場ってやつですか!ハル、見てみたいですー!」

「ドラマみたいだよね!」

「ですよね!」

「ええー…」


何言っちゃってんの、この子等。っていうか、ホントに何?俺とレイチェルの邪魔しに来たわけ?え、何なの?別れさせたいの?破局させたいの?ねぇ!


「っだあああああ!俺は、レイチェル一筋だから!絶対別れないから!2人とも、ごめんねー。は・な・れ・ろー!」

「きゃっ、」

「はひっ!」


力任せに振りほどいた手を確認する事なく、彼女の家までの道を急ぐ。途中、後方から何やら聞こえてきたけれど、そんなのは一切合切オールスルー。


「はっ、」


約600mほど全力疾走して、やっとの思いで辿り着いた場所。「AOI」という表札が朝陽でキラキラと光って、押し慣れたインターフォンが軽快に音を立てた。


『おはよう、綱吉』

「…おはよ、」


程なくして出てきたレイチェルは、やっぱり可愛くて。っていうか、ぶっちゃけ毎日可愛いんだけど。透き通るようなプラチナブロンドの髪に、まるで夕闇を思わせるかのような深いインディゴブルーの瞳。

軽やかな動作で出てきた彼女は、俺の自慢の恋人。


『あれ?京子ちゃんやハルちゃんと一緒じゃなかったの?』

「え、何で?」


開口2番に紡がれた言葉は、何故か俺を酷く動揺させて。別にやましい事は何もしてないけど、京子ちゃんが言っていた先の言葉が脳裏を掠めた。


「えー、怒られるどころか、別れるって言われたりして!」


嫌だ!嫌すぎる!

こんな事で別れてたまるかコノヤロウ。自宅の前だというのに、衝動的に抱き寄せた彼女の身体は柔らかく。ふわりと香るシャンプーの匂いが、身体中を甘い電撃のように駆け巡った。


「好きだよ、レイチェル」

『え、何、どうしたの?』

「いいから聞いて、レイチェル。俺、君が好き。大好き。寧ろ愛してる。死ぬほど愛してる」

『ちょ、綱吉!恥ずかしいよ…っていうかここ、通学路!』

「関係ない!俺、レイチェルのこと愛してるから。絶対浮気とかしないから!」

『わっ、分かった、から…』


恥ずかしそうに視線を彷徨わせる彼女の顎を掬って、人目もはばからず深く口付けた。時折、んっ、と官能的に息を漏らすレイチェルは酷く欲情的で、綺麗で、愛しくて。


「愛してるよ、レイチェル」

『っ、私、も…』


可愛らしく顔を赤らめた恋人に、もう一度。今度は甘く啄むようなバードキスを、送った。





もう一度、キスして?



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