長編2

第一章:出会い再び……
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 平和がもたらされてから一年後。

 クラウド城での修行を終えたバーバラは、若くして故郷カルベローナの長の座についた。
 と言っても、毎日忙しく働いているのではない。彼女のお役目は、たまに魔法の講義をするといったカリスマ的な存在にしかすぎないのだ。

 それなら、長などいなくてもいいのではないかと、思うかもしれない。しかし、存在そのものに意義があるのだ。
 現に、カルベローナの創設者である大魔女バーバレラの血を受け継いでおり、世界の平和を取り戻した人物の一人でもある為、住人達の羨望の眼差しを一挙に引き受けているのだから。

 とは言うものの、バーバラにしてみれば、今の生活は不満だらけであった。
 ようやく勝ち得たこの平和な時代にそのような考えをするのは、罰当たりなのだろう。
 しかし、彼女はまだ二十歳である。その上、元々は勝気な性格の持ち主。バーバラには、苦痛の日々の連続なのだ。
 しかも、毎朝、住人に対して演説をしなければならないというのが説教のように思えて、彼女の心を余計に憂鬱にしていた。

 長の座についてまだ半月しかたっていないというのに、この役目は重荷となっていた。
 だが、代わりの人間は誰もいない。前長老のブボールは、デスタムーアの手にかかってしまった。
 次の長は、百年に一度しか生まれてこない。しかも、絶大な魔力が要求される。全世界を探したところで、彼女以上の持ち主はこの世に存在しなかった。
 よって、どうしようもないジレンマが、彼女を襲うのだ。不平不満を軽々しく口に出せるような相手がいないというのも、不幸だった。

 このように辛くなると思い出すのは、世界の命運をかけて旅していた、あの懐かしい日々だった。
 確かに、いまの生活に比べると不自由はあったし、緊張と不安の連続だったが、その分驚きや発見も数多くあり、毎日が充実していた。
 何よりも、苦楽を共にした仲間達がいたからだと、もう戻らない過去を振り返り涙にくれていると、突然ドアをノックする音が聞こえたので、彼女は慌てて涙をぬぐった。

 「失礼いたします」

 バーバラが返事をするとしばらくして、お付きの女性が見事な振る舞いで入ってきた。

 「おはようございます、バーバラ様」
 「おはようドリス。今日もいい天気ね」

 バーバラは泣いていたのを悟られないように、出来るだけ明るい声で言った。かなり注意していたおかげで、気づかれる心配はなかった。
 
 「そうですね。平和が戻ってからというもの、過ごしやすい日々が続きますね。本当にありがたいですわ」
 「ほんと。あまり雨も降らないし……。この辺りってこういうものなの?」
 「はい。温暖かつ安定した気候。そして豊富な地下水。バーバレラ様の魔力の賜物でしょうね」

 ドリスは、記憶を無くした若き長に説明してやった。彼女の脳裏には、この町の創設者である大魔女バーバレラの姿が浮かんででもいるのだろうか。

 ドリスの家系は、代々長老に仕えてきた。彼女も、前長老であるブボールに仕え、そしてバーバラに仕えている。
 最初にカルベローナを訪れた時に、屋敷内を案内してくれたのは彼女だ。
 ブボールの魔力を遙かに凌ぐ現在の主を、彼女が尊敬の眼差しで見つめることもしばしばだった。

 「ところでバーバラ様。朝早いのに大変申し訳ありませんが、ゼニス王からご伝言で、大至急城までいらして欲しいとのことでございます」
 「ゼニス王が? 一体何の用かしら?」
 「わかりませんが、どうも慌てておられたご様子だったとか……」
 
 いつも物腰落ち着いた王が珍しいこともあるものだと、バーバラは不思議に思った。
 一年の修行の間は城で生活をしていたので、だいぶ理解しているつもりだったのだ。記憶にある王は、夢世界を束ねる者にふさわしく、常に堂々たる態度をしていたものだ。

 「そう……。わかりました。じゃあ、これから行ってきます」
 「ご講演をお済ませになってからでもよろしいのでは? 町中の者が楽しみにしておりますので」
 「あら。いま大至急って言ったじゃない。そんなことしてる暇はないんじゃないの?」

 久しぶりに面白そうなことが出来たのだ。ドリスが言いたいことはわかっていたが、ワクワクした気持ちを抑えるなど無理な話である。
 バーバラは、いたずらっぽくウィンクすると、ルーラをかけて、さっさと行ってしまった。
 
 残されたドリスはため息をつき、広場に集まって、いまかいまかと楽しみにしている民にどう理解してもらおうかと考えた。

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